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Lee-Byung-hun addicted

Lee-Byung-hun addicted

第9話

穀雨』 第9話

ふたりが飲み残したワインを持ってワインセラーから出てくると客はほとんど帰り始めるころだった。
「どこ行ってたんだよ~。心配してたんだぜ」
彰介がエサを見つけたかのような速さで近づいてきて言った。
「いや、ワイン取りにね。あんまり美味しいから半分以上二人で飲んじゃったけどお前も飲むか?」
「えっ、そんなに旨いの?」
「だって一本1900万ウォンのワインだよ。」揺が小声で耳打ちした。
「え~~~っ、1900万ウォン?」彰介は大声で言った。
皆が何事かと思って三人に近づいてきた。
「この二人俺たちに内緒で二人で1本1900万ウォンのワイン飲んでたんっすよ。」
彰介は非難めいた口調でみんなに訴えかけた。
「どこ行ってたのかと思ったらお前そんなことしてたの?」遅れてきたハギュンが言った。
「おお、来てくれてたんだ。」
「来てくれてたんだ・・じゃないよ。来た途端お前行方不明だっていうし・・。」
「悪い悪い。ちょっと取り込んでてね。」ビョンホンはそういうとチラッと揺を見た。
「ふ~ん」その意味ありげな目線にハギュンは二人の間に何かがあって一応無事に解決したらしいことを悟った。
「で、ヒョン。ずっと待ってた俺らに何くれるんですか~。」と智。
「じゃ、みんな一本ずつ好きなワイン持ってかえっていいよ。あっ、一応持ち出す前に俺の確認とってね。」
「え~~っ、高いのくれないのかよ。」
「人聞きが悪いな。そうじゃなくてみんながどんなの選ぶのか一応知りたいからさ。御礼も言いたいし。・・・・じゃ、早いもん勝ちっ!」
そういった途端全員が地下のワインセラーになだれ込んで行った。
「何だかここ温度高くない?」彰介がセラーに入って開口一番に言った。
「えっ、そっかぁ~。」しらばっくれたようにビョンホンは答えニヤッと笑った。
「何でかなぁ~。あ、あれだ~・・・理由聞きたい?」
その様子に大体さっきまでここで何が起こっていたのか珍しく悟った彰介は
「ううん。聞かない。やめとく。当てられて眠れなくなりそうだ。」と答えそそくさとワイン選びの人の波に飲まれていった。
「なんだ、つまんないの。」とビョンホン。
「やめてよ。恥ずかしい。」傍らで揺は苦笑いをした。
セラーの入り口でみんながワインを選ぶ様子を嬉しそうに見つめるビョンホン。
「ヒョン、俺これにする!」
智がいかにも高そうな一本を持ってきた。
「えっ、お前本当にこれでいいの?」ビョンホンは心配そうに尋ねた。
「えっ、これ・・・安いの?」智はなめまわすようにワインのラベルを覗き込んだ。
「どうかなぁ・・・もうちょっとよく考えた方がいいんじゃない?」
「えっ、・・・じゃあ、ちょっと待って。」智はそういうとまた人ごみの中に戻っていった。
「俺、これにしとく。」
「監督~。さすがですね。これはいいワインですよ。監督の好みにも合ってると思います。
監督にはこのワインじゃお礼できないくらいです。本当に『甘い人生』声かけてくださって感謝しています。これは冗談でなく。大好きな映画で賞を三つももらって。カンヌにも行けたし。揺はしばらく遊んでくれないみたいだからまた連絡しますよ。」
「またお前の子守かよ。全く。たまにはいい女紹介しろよ。お前ら見てるとさすがに独り身が悲しく思えてくるよ。」ジウン監督はそういうとビョンホンの胸を拳で叩いた。
「はい。じゃ、今度。」笑って答えるビョンホン。
「じゃ、揺ちゃん、アフリカ気をつけてね。」
「はい。監督、アフリカの女性いかがですか?」
「いいかもしれない。」
「じゃ、心がけておきますね。」揺はニヤッと笑って言った。
ジウン監督はニタッと笑うと振り返ることなく手を振って階段を上がっていった。

皆次々と決めていき、ビョンホンは一人ひとりにゆっくりお礼を言って握手をし見送った。
「俺、これ。」ハギュンはあまり年代ものでなさそうな一本を手にしていた。
「これでいいのか?」
「うん。」
「確かにお前らしいかも。」
「そう、ワインと女は相性だから。値段じゃないよな。」とハギュン。
「そうそう。コイツすっごい貧乏なんだぜ。今。飛行機代も無いんだって。」
ビョンホンは揺を指差して笑った。
「そんな揺ちゃんがたまらなく好きなんだろ。お前。」笑いながらハギュンが言った。
「ああ。」
「あ~また、のろけられちゃったよ。一人もんはとっとと退散するよ。じゃあな。受賞オメデトッ!」ポンッとビョンホンの肩を叩くとハギュンは足取り軽く階段を登っていった。
ビョンホンと揺は目をあわせて微笑む。
「最後はあの二人か・・・・」
ワインセラーには必死で選び続ける智と彰介の姿があった。
「あの人まだ選んでるの?」ウナが呆れた顔で階段を下りてきた。
「何だか目移りしてるみたいだよ。実は浮気性なんじゃない?」
ビョンホンはそういうとゲラゲラと笑った。
「・・・・・」ウナはビョンホンの顔を不愉快そうに見た。
「ウッウナさん、ほら、ね。きっとさぁ~目が肥えすぎてて・・・」
揺がそこまで言った時、彰介が一本のワインを持って来た。
「あ~~時間かかっちゃったよ。飲んだことがないの探すの大変でさ。」
「うそ。お前そんなにワイン詳しいの?」ビョンホンが驚いて言った。
「ヒョン。俺、こう見えても久遠寺家のお坊ちゃまなんだぜ。うちの実家のワインセラーはこの倍はあるかな。」彰介はあっさりとそう言い放った。
「ビョンホンssi、そういうことだから。」ウナは勝ち誇った顔で彰介と腕を組み手を振って階段を上がっていった。
苦笑いしながら首をかしげるビョンホン。
「最後はあいつか・・・・」
「ヒョン。これ・・・やっぱこれ・・・・」
「お前はまだまだだな。これからゆっくり教えてやるから。今日は俺が選んでやるよ。」
そう言ってビョンホンは彼に一本のワインを渡した。
「これ?さっきのの方が高そうだけど・・・」
「智。ワインは値段じゃなくて相性だから。それに・・・さっきのよりこっちの方が値段も上だ。」ビョンホンはそういうと智の頭を小突いた。
「もっといろいろ勉強しないとな。」
「はい。じゃ、頂いていきます。」智は最敬礼すると嬉しそうにボトルを抱え足早に階段を登っていった。
「ねえ・・・私あんまりワイン詳しくないんだけど・・・どうみても最初に持ってきたワインの方がいいワインなんじゃない?」揺が怪訝そうな顔でつぶやいた。
「あんな味のわからない若造に一本1000万ウォンのワインやれるかよ。」ビョンホンはしらっとした顔で言った。
「いやぁ~~~ん。映画俳優っ!」揺は彼の名演技に感心して惜しみない拍手を送った。

「いやぁ~~しかし今日はよく泣いたわ。」揺が言った。
庭の芝生に寝転がって二人は夜空を眺めていた。
「ねえ、本当にアフリカ行くの?」
「うん。アフリカに行くのは何も貴方から離れるためだけじゃないのよ。」
「?」
「初めて協力隊の仕事で海外に行ったのは10年くらい前かしら。まだ、自分の仕事について何となくしか考えていない頃だったんだけど、私はあそこでいろいろなことを教えてもらったし、忘れかけていることを思い出すこともできたの。私の人生にとってすごく意味のある経験だったと思ってる。
こんなことでもないともう日々の仕事に手一杯で行けないでしょ。だからいい機会だと思ってね。また新しい何かを見つけてくるよ。それから忘れてた何かを思い出してくる。」
揺はわくわくした顔で言った。
「そっかぁ~。何だか俺も行きたくなってきた。」悔しそうにビョンホン。
「あなた、仕事じゃない。それにフランス語がペラペラじゃないとダメなのよ。この仕事」
「ふ~~ん。仕方がないな。じゃあ、揺が見つけたことや思い出したこと帰ってきたら僕に全部教えるんだよ。わかった。」
「わかった。メモして帰ってくるよ。」
「どこに?」
「どこにって・・・紙に」
「つまんないよ。それじゃ。」不満げなビョンホン。
「えっ、じゃあ、どこに書いてくるのよ。」
「えっ、背中とかお腹とか・・・」
「何言ってるのよ。『耳なし芳一』じゃあるまいし。」
揺はゲラゲラ声をあげて笑った。
「『耳なし芳一』?」
「ああ、わからないわよね。そりゃ。」揺はそういうとビョンホンに『耳なし芳一』の話を語って聞かせた。
興味深そうに聞いていたビョンホンは言った。
「ねえ、揺。おっぱいにはちゃんと書いてきて。それ以上ちっちゃくなると困るから」
「信じられない・・・・」
二人は顔を見合わせて噴出した。
「あ~あ。可笑しい。ねえ、次会えるのはドームかしら。」
「そっかぁ~。いよいよだな。」
「どう、面白くなりそう?」
「まあね。秘密だけど。そうだ。揺、席どの辺りなんだよ。」
「ん?まだチケット来ないからわかんないよ。」
「ふ~~ん。わかったら特別に手を振ってやるから教えろよ。」
「そんなえこひいきしていいの?」意地悪そうに揺が言った。
「少しぐらいならみんなも許してくれるさ。」
「そっかなぁ~。でも『特別に手を振る』ってどうやって振るのよ。」
「どうやって振るかな・・・こうやったり・・こうやったり。」
いろんな手の振り方を実演するビョンホンを見て笑い転げる揺。
「やめて、可笑しすぎるから。もう死にそう。」
「えっ、死にそう?そりゃ、大変だ。人口呼吸しなくちゃ。」
ビョンホンはそういうと芝生の上で笑い転げる揺に覆いかぶさり長く熱いキスをした。
「人工呼吸ってこんなに胸が苦しくなるの?何だか涙まで出てきたよ。」
また当分会えないのかと思うと揺は彼と離れることが無性に辛くなった。
「お前、また泣いてるの?今日何回目だよ。」ビョンホンは呆れて笑いながら言った。
「えっっと・・・・何回目だ?」
「もういいよ。数えなくて。泣きたいだけ泣けよ。涙は俺が全部拭いてやるから。」
「何か、すごくカッコいいよ。ビョンホンssi」涙ぐみながら揺。
「今頃気がついたのかよ。」笑いながらビョンホンが言った。



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